without you
クリスマスを誰かと共に過ごす。
こんな他愛のないことが習慣になってしまったのは君のせい。
そして、そんな当たり前のことを幸福だと思うようになったのも君のせい。家に帰ると灯りが灯っている、そんな普通のことがこの頃の俺はどうやらとても嬉しいらしい。いつも忙しい君がクリスマスイブには必ず俺よりも先に帰宅し、テーブルを整えて待っていてくれる。たったそれだけのことなのに、どうしてこんなに泣けるほど嬉しいのだろう。そしてそんな日常を当たり前のように与えてくれる君が、こんなにもいとおしいのはなぜだろう。
君と結婚してから2度目のクリスマスイブの夜。
君と交際するようになってから…6度目の夜。
今夜も君はキッチンで特別な夕食を用意して、俺を待っていてくれるのだろうか。
以前君が欲しいと言っていた華奢なデザインの時計を購入し、そのリボンのかかった小さな箱の感触を確かめながら、俺は駐車場から自宅までのほんの数分が待ちきれなくて、つい早足になってしまった。走る必要はないのだと君に何度言われようと、止められない。わたしはいなくなったりはしないと、何度君に言われようとも、君がそこにいることを一刻も早く確かめたいから、少し走ってしまうのだ。君がここに共に住むようになる以前から、特別イブの夜はいつもそうだった。職員としての義務で一応クリスマスパーティに参加はするが、益田の店にも寄らず、まっすぐに帰宅する。そして君との時間を楽しむのが俺には一番のクリスマスプレゼントだからだ。
「 、今帰った。」
鍵を開けるのももどかしく感じるほど、俺は君に逢いたがっている。
毎日顔を合わせているにも関わらず、だ。
そう、俺は君を言葉では言い尽くせないほどに愛している。「お帰りなさい、零一さん。もうちょっと待っててね」
「では、着替えてくる。」
「はーい。」着替えてくると言ったそばから、キッチンで鍋をかき混ぜる君を背中から抱きしめて、注意するために振返った君の暖かい唇に俺の冷えた唇をそっと乗せた。君が何度注意しようとも俺は一向にこのような衝動的な行為を止められい。なぜなら、こうして君に口付けることでやっと、家に帰ってきたという実感が湧くのだ。だが、何度も口付けると君に叱られるから、いつも1回だけでやめるように心がけてはいるが。
着替えを済まし、手を洗ってキッチンを覗くと当然のことだが君がいた。
君がここにいることは十分に判っている。
だが、俺は時々急に君がいなくなるのではないかと思うのだ。「零一さん、そろそろ食べましょうか。」
「ああ、おいしそうだな。」
「もちろん。だってシェフが一流ですもん。」
「それもそうだ。」
「ふふふっ。いただきます。」俺の世界にもこんな当たり前の日常が存在していいのだ、ということに気付かせてくれたのは君だ。
そして、こんなにも世界が暖かく色彩に溢れていることに気付かせてくれたのも君だ。
今俺は君がいるこんなささやかな生活を失うことだけが恐ろしい。君が俺の前から消えてしまったら、世界は再び色を無くすのだろうか。
君が俺の前から消えてしまったら、世界は再びぬくもりを無くすのだろうか。
君が俺の前から消えてしまったら、その時俺は一人で生きていけるのだろうか。
食事を終え、リビングに移動して互いのプレゼントを交換する。君の喜ぶ顔を見ていたら、どうしたものか俺は急に視界がぼやけてしまった。
君を手に入れてから、逆に俺は些細なことで気持ちが昂ぶるようになったようだ。何をやっているのだ。「零一さん…わたしはずっとここにいます。」
「 …!」
「だからそんな哀しそうな顔しないで。」
「俺は哀しそうか?」
「はい、少しだけ…。」
「哀しいんじゃない、怖いだけだ。」
「わたしが…わたしがどこかに行きそうだから…ですか?」
「ああ、そうかもしれない。」
「大丈夫。大丈夫です。」そう言って はソファの足元に座りこんだまま、俺の足にしがみついてきた。君が俺の前から消えることなどない、そう思っているのに時々無性に不安になるのはどうしてだろうか。きっと俺は愛しすぎているのだろう、君のことを。
「 、俺は君を愛し過ぎている、のだと思う。」
「もっと…もっとわたしを好きになってください。零一さんが不安にならないようにもっと。」
「君は……!」
「だって、もっと好きになってくれたら、不安な気持ちの入る隙間なんて無くなるでしょう?」
「愛している…。」
座りこんでいた をそっと膝の上に抱き上げて、君を抱きしめる。
抱きしめることくらいしか、君への感謝を表す術を俺は知らない。
唇に口付けることくらいしか、君への愛情を表す術を俺は持たない。こんな不器用な男ですまない。
だが君に対する気持ちだけは…誰にも譲れないのだ。
誰にも…。そうだ、大切な言葉を忘れていた。
メリー…クリスマス、 。